Q 先日、父が亡くなりました。父と母は2年前に離婚していたので、相続人は兄と私の2人です。父には不動産(土地建物)と預金がありましたが、父は、兄の負債を整理するために、生前、預金全額を兄に贈与していました。その上、父が残した遺言には、長男である兄に不動産を相続させると書かれていました。このままだと兄が父の財産全てをもらうことになってしまいます。私は何も相続できないのでしょうか。
A 民法は被相続人(亡くなった方)の財産処分の自由を前提としつつも、その配偶者や直系卑属(子や孫)、直系尊属(親や祖父母)が一定の相続財産を確保するための制度を用意しています。これを遺留分制度と言います。
遺留分を持つ者(遺留分権利者)は、被相続人(亡くなった人)の配偶者、直系卑属、直系尊属です。ご相談のケースでは、相談者は直系卑属に該当しますので、遺留分を持つことになります。
遺留分は、①直系尊属のみが相続人である場合には被相続人の財産の3分の1、②その他の場合には被相続人の財産の2分の1となります。相続人が複数いる場合には、この遺留分に各相続人の法定相続分を乗じて各相続人の具体的な遺留分を算定します。
ご相談のケースでは、②に該当し、かつ、各相続人の法定相続分が2分の1となりますので、各相続人の具体的な遺留分は、被相続人(亡くなった父)の財産の4分の1(2分の1×2分の1)となります。
次に、このケースでは、遺留分の対象となる被相続人の財産に、被相続人(父)から相続人(兄)への生前贈与が含まれるかどうかが問題となりえるところです。
この点、改正前の民法では、贈与契約が相続開始前の年間になされたものである場合は、贈与された財産相当額も、被相続人の財産に含めて具体的な遺留分を算定することができると規定されていました(改正前の民法第1030条)。
しかし、令和2年4月1日に施行された改正民法によって、被相続人が、生前、相続人に対して行った贈与については、相続開始前の10年間にされたものに限り、遺留分を算定するための財産の価額(但し、婚姻もしくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限られます。)に含めることになりました(民法1044条第3項)。なお、被相続人が相続人以外の第三者に対して行った贈与については、従前通り、相続開始前の1年間になされたものに限り、遺留分を算定するための財産の価額に含めることとされています(同条第1項)。
ご相談のケースでは、お父様は、生前、お兄様の借金を整理するためにお兄様に預金を贈与したとのことですので、この贈与がお父様の死亡前10年以内になされたものであれば、贈与された預金額全額について遺留分を算定するための財産の価額に加えることができると考えられます。相談者がお兄様に対して請求することができる具体的な遺留分侵害額については、お父様の相続財産(不動産)の価額や負債の額などによりますので、詳しいことは沖縄弁護士会へご相談ください。