
Q 私は妻と結婚してから32年になります。妻との間には3名の子どもがいます。 最近、私は体調が思わしくなく、いわゆる「終活」のひとつとして、私名義となっている自宅を妻に生前贈与したいと考えています。ただ、生前贈与してしまうと、私が死んだ後に遺産を分ける際に、妻の取り分が少なくなるという話を聞いたことがあります。しかし、それは私の望むところではありません。やはり、妻の取り分は少なくなってしまうのでしょうか。
A 相続人に対する生前贈与があった場合、いわゆる特別受益(くわしくは、相続2-4参照)の問題が発生します。したがって、自宅を奥様に生前贈与した場合、奥様の遺産の取り分が少なくなってしまう可能性があります(民法903条1項)。
しかし、夫婦間における自宅の生前贈与は、相手の老後の生活の安定を考えてなされるのが一般的なはずです。それなのに、贈与が特別受益として考慮され、配偶者の遺産の取り分が少なくなることは問題があると考えられていました。
そこで、令和元年民法改正で民法903条4項が新設され、今回のように、婚姻期間が20年以上の夫婦の夫が、妻に自宅を贈与したような場合には、夫は、持ち戻し免除の意思表示をしたものと推定されることになりました。
「持ち戻し免除の意思表示」とは、特別受益に該当する贈与等をする場合に、被相続人(今回の例では、夫である相談者)が、贈与を特別受益として計算に入れずに遺産分割をしてね、という意思表示をすることです。このような意思表示を持ち戻し免除の意思表示といい、その場合には「その意思に従う」(民法903条3項)とされています。ですので、持ち戻し免除の意思表示があった場合には、生前贈与は特別受益の計算に入れないということになります。
したがいまして、今回のケースでは、奥様に自宅を贈与した場合であっても、これは遺産分割の際に特別受益として計算に入れないでねという意思表示をしているものと推定されますので、基本的には自宅を贈与したことを理由に遺産分割での奥様の取り分が少なくなることはない、という結論になります。
しかし、一点注意が必要です。
「推定される」ということは、「本当は違うかもしれないけど、一応、こうだということにしましょう」という意味なので、「実はそうではなかった」ということが明らかになった場合、その推定が覆されてしまう可能性があります。推定が覆されてしまうと持ち戻し免除の意思表示はないという扱いになりますので、贈与が特別受益として計算に入れられてしまうことになります。
推定が覆されないにしても、その点をめぐって相続人同士で争いになることもあるかもしれません。ですので、誤解や争いのきっかけを残さないように、贈与の契約書や遺言書などで持ち戻し免除の意思表示をすることを明記しておくことが望ましいかと思います。
くわしいことは沖縄弁護士会にご相談ください。