Q 相続の対象となる財産と遺産分割の対象となる財産とは同じではないのですか?遺産分割しなくてよい財産はあるのですか。
A 遺産分割の対象となるのは、相続財産のすべてとは限りません。
1 相続が開始されると、被相続人が有していた一切の権利義務が、相続財産として相続人に承継されることになります。
もっとも、だからといって、その相続財産のすべてが遺産分割の対象となるのかというと、そういうわけではありません。相続財産の内容・性質によっては、遺産分割の対象とならないものもあります。
そもそも相続財産そのものとはいえないものの、紛争解決の観点から、遺産分割の対象とすべきではないかということが問題となる財産もあります。
したがって、すべての相続財産が、当然に遺産分割の対象となるわけではないということは注意が必要でしょう。
なお、遺産分割協議等において、相続人らの合意によって、遺産分割の対象とする財産を決めることは可能です。
以下で具体的に見ていきましょう。
2 相続財産であっても、当然には遺産分割の対象とはならない財産としては、可分債権(かぶんさいけん)があります。可分債権とは、可分(分けることができる)な給付を目的とする債権のことをいいます。
最も代表的なものは、金銭債権です。例えば、お金を貸した人に対して「お金を返せ」という権利などです。原則として、金銭債権その他の可分債権は、遺産分割を経ることなく、法律上当然に分割されて、各共同相続人がその相続分に応じて権利を取得すると解されています。
預貯金も、法的にいえば預貯金の払戻請求権という金銭債権ですから、この可分債権に含まれ、長らく預貯金は遺産分割の対象にならないと考えられてきました。ところが、平成28年12月19日、最高裁大法廷は、従来の判例を変更し、預貯金も遺産分割の対象となると判断しました。したがいまして、預貯金については、可分債権だけど遺産分割の対象として扱われることとなります。
3 遺産分割の対象となるのかどうかが問題となることの多い財産としては、以下のようなものがあります。
(1)現金
遺産分割対象財産に含まれます。
(2)預貯金
上記のように、遺産分割の対象として扱われます。
(3)生命保険金
生命保険金は相続財産にはなりません。したがって、遺産分割対象財産にも含まれません。ただし、内容によっては、特別受益による持ち戻し対象となることはあります
(なお、特別受益についてはhttps://www.okinawasozoku.com/395.htmlをご参照ください)。
(4)死亡退職金
死亡退職金は相続財産にはなりません。したがって、遺産分割対象財産にも含まれません。また、特別受益による持ち戻し対象ともならないと考えるのが一般的です。
(5)不動産
遺産分割対象財産に含まれます。
(6)動産(自動車・宝飾品等)
遺産分割対象財産に含まれます。ただし、特定ができない場合には、遺産分割対象財産とはならないと解されています。
(7)社員たる地位・社員権
株式会社の社員たる地位(株式)・社員権は、相続によって相続人らの準共有となり、遺産分割対象財産に含まれると解されています。特例有限会社の場合も同様です。他方、合名・合資・合同会社(持分会社)の社員たる地位(持分)・社員権は、相続財産に含まれないため、遺産分割の対象とはなりません。
(8)社債・国債
社債・国債は単なる債権ではなく、相続人の準共有となり、遺産分割対象財産に含まれると解されています。
(9)投資信託
各投資信託の取扱いによって、可分のものと考えるか不可分のものと考えるのかという違いがあります。可分のものであれば、遺産分割対象財産とはなりませんが、不可分のものであれば、準共有となり遺産分割対象財産となると解されています。
(10)祭祀財産
系譜、祭具及び墳墓などの所有権は、祖先の祭祀を主宰すべき者が承継し、相続財産にはならないとされています(民法897条)。
くわしいことは沖縄弁護士会にご相談ください。