Q 先日、父が急遽亡くなりました。そこで、年老いた母に代わり、私長男が父の葬儀を喪主となって執り行うことになりました。しかし、私には一般的な葬儀を行うだけの預貯金がありません。そこで、葬儀費用についてですが、亡くなった父の預金を引き出して、支払ってもいいですか。
A 葬儀費用とは、①死者の追悼儀式に要する費用と、②埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)をいうとされています。
葬儀費用を誰がどのように負担するかについては、民法その他の法律において特に定められていません。①共同相続人の負担となるとする考えや、②実質的喪主が負担するという考え、③相続財産でまかなうという考え、④慣習・条理により決まるという考えなどさまざまな考えがありますが、いずれとも決まっていません。
葬儀費用は、通常は相続開始(被相続人の死亡)後に生じるものであるため、相続財産とは別のものであり、相続財産から当然に支払うことができるというわけではありません。
最近では、亡くなった人が、生前に葬儀に関する契約を締結し、葬儀内容を決めるとともに、互助会などに葬儀費用に充てるためのお金を積み立てておくこともあります。この場合、その契約の内容にしたがって葬儀費用の負担が決まります。
亡くなった人がこのような契約を締結していた場合、自己の財産(相続財産)の中から葬儀費用を支払うと定めていることが多いのですが、その場合には、一旦喪主が立て替えて支払ったとしても、最終的には、相続財産の中から葬儀費用が支払われることとなり、相続人の誰かが自己の固有の財産で負担するということはありません。
また、亡くなった人の相続人の間で、喪主である長男が全て負担する、相続人全員が各自の相続分に応じて負担する等の合意がなされれば、その合意に従って負担が決められることとなります。多くの場合、相続人間で、葬儀費用の負担者を定める一方で、その負担を考慮して各相続人についての遺産の取得分を決めることとなります。
最後に、亡くなった人が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった人の相続人間で葬儀費用の負担についての合意がない場合です。
その場合は、①追悼儀式に要する費用については、儀式を主宰した者が負担することとなります。このような場合、追悼儀式を行うか否か、儀式を行うにしても、儀式の規模をどの程度にし、どれだけの費用をかけるかについては、もっぱら儀式の主宰者がその責任において決定し、実施するものであるため、儀式を主宰する者がその費用を負担するのが相当といえるからです。
②埋葬等の行為に要する費用については、祭祀を主宰すべき者(祭祀承継者)が負担することとなります。遺骸又は遺骨の所有権は、民法897条に従って慣習上、死者の祭祀を主宰すべき者に帰属すると解されていることから、その管理、処分に要する費用も、祭祀を主宰すべき者(祭祀承継者)が負担するのが相当といえるからです。これまでお話ししてきたとおり、葬儀費用の負担については、当然に相続財産から支払うことはできません。
ご相談者さんのお父様が葬儀費用の取り決めをしていない場合で、相続人のみなさんが、相談者さんにおいて、葬儀費用を負担させ、それに応じてお父様の遺産を多く取得させることを合意するのであれば、ご相談者さんがお父様の預金を引きだして葬儀費用に充てることはできると思います。
もっとも、その後に、相続人間において紛争となることもありますので、このような紛争が生じることを避けるために、葬儀の方法や内容、葬儀費用の負担方法等について、相続人間で合意書を作成すること、また、事前に被相続人において遺言で定めておくことも一つの方策といえるでしょう。
もっとも、法改正(民法909条の2)により、遺産である預貯金額の3分の1に法定相続分をかけた金額(ただし同一金融機関に対しては150万円まで)について、相続人が単独で払い戻しができるようになりましたので、これにより葬儀費用を準備することができます。
くわしいことは沖縄弁護士会にご相談ください。