Q 先日、父が亡くなりました。父の面倒を見ていた兄が、父の遺言だと言って、公正証書を持って来ました。しかし、父が昔私に話していたことと全く違う内容です。父は、晩年、認知症を患っていましたので、そこにつけこんで作成されたものとしか思えないのですが、公正証書を受け入れなければならないのでしょうか。
A 遺言者が有効な遺言をするためには、遺言の際に、遺言をするだけの能力、「遺言能力」が必要とされています。もう少し分かりやすくいえば、遺言内容やその効果を理解し判断できる能力が必要とされています。ですので、もし遺言能力がない状態で遺言が行われていれば、その遺言は無効になります。
公正証書による遺言の場合、公証人が本人に内容を確認させた上で署名させるという厳格な手続きがとられます。しかし、遺言能力の有無は本人の外見だけで判断できないこともあります。公証人が、例えば認知症の程度など遺言者の遺言能力について正しく判断できないまま、遺言公正証書が作成されているケースもあります。
ご質問のケースでは、遺言公正証書が作成されたころの遺言者(お父様)の認知症の程度について、しっかりと調査をする必要があります。その上で、やはり遺言能力はなかったと考えられる場合には、裁判所に判断を求める方法があります。法律上は、原則としてまずは家庭裁判所に調停を申し立てて他の相続人(お兄様など)と話し合い、それでも解決がつかない場合は、遺言無効確認訴訟を地方裁判所(もしくは簡易裁判所)に提訴することになっていますが、明らかに調停での解決は見込めないようなケースでは、調停を申立てずに最初から訴訟をすることもあります。
裁判では、遺言者(お父様)の認知症の程度についてしっかり主張立証することが必要であり、そのための調査が重要になります。どのような手続きを選択するか、どのような資料を集めるのが有効か等はとても専門的判断になりますし、そもそも資料を集めること自体専門家でないと難しいケースもありますので、弁護士に相談することをお勧めします。